米国の設計事務所での四方山話2011.01.14 [COLUMNS,コラム]

私は2001年より10年間、米国北東部のマサチューセッツ州ボストンの組織設計事務所にて建築設計の仕事をしていました。この度、私個人の日々の暮らしから見た米国都市生活、当地での建築設計事情について四方山話を御紹介したいと思います。

「米国のビジネス時間・契約主義」

朝8時に官公庁、銀行、多くの企業が業務を開始し、そして夕方5時か5時半には殆どの人々がワーッと一斉にオフィスを去っていくのですが、日本から来た当初は「どうしてそんなに急いで帰る?」と驚いてました。きっと、大切な人との時間や自分自身も大切にする価値観が根底にあるだろうと思いました。まあ確かにそうなのですが、結局は就業時間外は自分の時間だという「契約主義」に基づく流儀なのだと結論つけました。成果主義が根付いているお国柄ですが、あくまで契約時間(?)内だけに通用する話なのかもしれません。

また、多くの人が自動車で移動しているので、「仕事の後にちょっと一杯」と出来ないので早く帰らざるえないのかもしれません。

それから、「犯罪」も理由の一つでしょうか。日本もこの頃は物騒になったと耳にしますが、米国の日常生活では犯罪に対してかなり神経を使います。夕方以降のゴーストタウン化したビジネス街に居るのは安全上も得策ではなく、地下鉄やバスなどは夜7時にはあっという間に本数が減り、待っている間は周囲を気にしなくてはなりません。しかし、建築の仕事はこの国でも例外の部類の入るのでしょうか、どうしても夜遅くなってしまったり、週末も作業がある時だってあります。そんな建築家ライフを米国社会は「変わった奴らだなあ」と半分呆れているような・・・(そんな気がします)。

 

「お客様は神様ではない」

日々の暮らしの中で、間違った電話料金や二重請求の医療費もしくは保険料金へのクレーム、家や車の修理、米国人でさえ四六時中こんな事ばかりに振り回されるので、トラブル皆無の日本車が人気なのも納得です。修理などは信頼できる業者を探すのにも苦労するので、DIY文化もあって、自ら「修理」を楽しみ、サッシュを買って取り付けたり、タイル貼り、キッチンだって施工、もっと本格的なこともしています。

そんな日常生活を抱えていても、世界の経済大国、やるべき仕事は沢山あり、夕方までの限られた時間をいかに合理的に効率よく仕事するか・・・。会議やプレゼンなどは昼食時間までも利用し、サンドウィッチやピザ・サラダなど片手で摘めるものを口に放り込みながら仕事を続けます。まさにファストフードの国ですね。ビジネススタイルも、お客様が優先、目上・年長者が先、などと気遣う時間がもったいないのか、いきなりファーストネームで呼び合って本題に突入です。一方ではコピー・プリント一枚、電話代、出張・交通費など、プロジェクトに関わる全ての収支をPMがきっちり管理しています。「ここで負けて、あとで勝つ」という概念はないように感じます。また、仕事上と個人の責任を混同することはなく「これが出来なくても、世界が終わるわけではない」というのも、アメリカンビジネスです。これらのコンセプトが米国ビジネス精神の根本なのかなあと感じております。

 

「年棒制、二週間給」

私の勤務先に限らず、米国では年棒制を採用している企業が多い様です。毎年一回、更改を行い、前年の実績や新年度の希望などを会社側と話し合います。我々も会社側を査定します。年棒を分割した給料は月給ではなく二週間ごとに支払われるケースが多く、つまり二週間ごとに「Hire and Fire」のチャンスがやってきます。ご存知のように雇用と解雇を繰り返すのは米国の企業文化ですが、転職を繰り返す人がいる一方で一つの職場にとどまる人も少なくありません。そして、「勤め先にお世話になっている」よりも「勤め先に私がサービスしてあげている」と意識しているような印象を受けます。自分自身が「企業」という感覚なのかもしれませんね。

 

「インターン学生」

米国の多くの大学では単位の一つとして、実社会でのインターン研修を加えているようです。2・3ヶ月もしくは半年ほどフルタイムで他の先輩スタッフに交じって仕事をするのですが、「知らないことは恥ずかしい」など考えず、どんな些細な事でもあっけらかんと「すぐに聞く、教えてもらう」という学生さんが多いですね。また、初等教育でも「Show and Tell」という、自分の好きなものや特技について、いかにコレが好きか、なんでコレが好きか、いかに自分はコレが得意であるかと発表させ、人前で喋る、意見を言うという訓練をつけさせてます。それ故に米国の学生、いやいや全ての米国人は自分自身を見せる能力が高いのかなあと思うのです。

 

「外国人建築家・スタッフ」

我々日本人も含め、欧州、アジア、南米、色々なところから来ています。私の独断と偏見ですが、噂通り?ヨーロッパの人はランチが長いですねえ。「自分は自分」との意識を強く持っているような気がします。東欧出身者はパースを上手に書く人が多いのですが、そういう教育を受けてきたのでしょうか?。中国や韓国の人は残業、徹夜、週末、ガンガン働きます。母国では相当な高等教育を受けてきたエリートが多く、実際素晴らしい能力を持った人が多いです。あらゆる国の人間と接する中で、中国人や韓国人と日本人はお互いにとても親近感を感じているように思います。

 

「建築家と賠償保険、スペックライター」

米国は訴訟社会と言われますが、・・・事実です。勿論、訴訟に至る前に様々な調停の方法があります。建築家・設計事務所が賠償保険に加入すると、保険会社主催の講習と試験を受け、保険の掛金等が割引にして貰います。契約書を始め様々な設計図書はAIAの書式を基に作成されることが多いですが、特に仕様書(スペックと言います)はスペックライターという専門家に書いてもらいます。仕様書はとても細かく記載され、あっという間に百科事典ぐらいの厚さになってしまいます。

 

「分業化とPM」

上記のようなスペックライターや弁護士だけでなく、様々なコンサルタントが関わっていくのも米国での建築プロジェクトの特徴でしょうか。それ故にコーディネーションに時間が掛かると同時に、全体を総括するPMの責務は重く、そのPM業務も専門会社に委託する場合が少なくありません。

 

「建材メーカーの営業+無料ランチ+AIA単位」

ランチ時間に建材メーカーや諸団体がその専門分野での講義をしに訪れますが、AIA資格保持のための必要単位と連携させている場合が多いです。新製品の営業も絡んだフィルターのかかった講義内容ですが、無料ランチを提供してくれるので若手を中心に結構な人数が集まります。メーカーにとっても、一度に営業を済ませられるので、効率が良いのでしょう。

 

渡米した当初は、色々な事にカルチャーショックを受けましたが、今は「それもアリかな」と笑って大抵のことを受け入れています。

書きっ放しになってしまいましたが、四方山話だと思ってどうぞお許しください。「インチ法での精度の限界」「日本と多少違う設計プロセス」「現場の交通誘導員は誰がやるのか」など他にもネタはありますが、次回にご期待くださいませ。